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超久しぶりのブログ更新は、尊敬するノンフィクション作家・安田峰俊氏の新作「和僑」を読んでみて感じたことを書こうと思う。あくまで「書評」ではなく「感想文」として読んでいただければ幸いです。長文注意。



和僑    農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人
(2012/12/15)
安田 峰俊

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■「和僑」の定義

まずこの本でいうところの「和僑」とは「和僑会」のような海外に進出した起業家たちだけではなく「特に中国大陸で仮住まいしたり、旅したり、出稼ぎしたりしている日本人たちの総称」であるそうだ。

この本に登場する「和僑」たちは

「雲南省の山村に住む農民の青年。重度の2ちゃんねらー」
「マカオで『カジノを買い取りたい』と豪語する富豪」
「海外で『日本定食』として働いていた風俗嬢」
「海外赴任しても日本人村に引きこもる上場企業の駐在員たち」
「金嬉老と同じ刑務所にいたという、上海の日系暴力団組長」
「日中友好に半世紀以上も身を捧げた後、反中・ネトウヨになった活動家」(裏帯の紹介文より)

と「普通の日本人」からみれば一癖も二癖もありそうな人々である。


■私も「和僑」予備軍、実はあなたも「和僑」予備軍かもしれない

この文章を書いている私自身もかつて半年かけて中国を旅し、今は台湾で道を模索している広い意味での「和僑」もしくはその予備軍であったりする。気付けば既に人生の一割を日本の外で暮らしている。日本という「国」や「文化」への気持ちは変わらないが、日本の「社会」に対する愛着が薄れているのを自覚し、その上で台湾の社会でどう生きていくか模索する日々を過ごしている。そういう人間からしてみるとこの本に出てくる日本人たちは良くも悪くもある種の「モデルケース」であり、色々なヒントが得られる本であるように思った。

上に書いた「和僑」たちのプロフィールを見て「私は『普通の日本人』だし、中国や海外に出る人って結局変わった人達なんでしょ?私には関係ないなー」と思う人は正直多いと思う。その感覚は至って普通だとも思う。
だが、これからは「私には関係ないなー」と思っている人たち(特に若い人たち)の何割かは「海外に出たい」を通り越して「海外に出るハメになる」というのが個人的な意見だ。理由やその過程はそれこそ、この「和僑」に描かれている人々と同じように様々だと思うが。


■「和僑の生き方」を通して、「これからの時代の幸せって何だろう」を考える

著者の意見が私と同じモノなのかは知らないが、この本のメインテーマの一つは著書曰く「エリートではない庶民的な日本人が、グローバル環境をどう生き抜いて幸せになるか」というものだ。
その具体例として、わざわざ日本人の8割が嫌う「中国」で生きることを選んだ日本人(=和僑)を取材して執筆されている。
著者が「どう生き抜いて幸せになるか?」と言っているように、登場人物たちのゴールは必ずしも、「起業・ビジネスの成功」ではなかったりするのがこの本が持つ、他の本にはない特徴の一つであると思う。(そういう人も出てくるが)

このメインテーマは特に一章と七章に出てくる、雲南省の農村で少数民族の妻子と暮らす事を選んだ「ヒロアキ」氏や二・三章に出てくる、中国に出稼ぎに行く「 日本人風俗嬢」たちを通して描かれているように感じた。
ちょっとしたネタバレになるが、著者はそれぞれの取材の最後、彼らに「自分の人生、幸せだと思いますか」と問うている。ヒロアキ氏も風俗嬢も同じように答えは「幸せです」というものだった。
「普通の日本人が考える『幸せな環境』からはかけ離れた環境にいる彼らが、なぜ『幸せ』と答えたのか」その理由を自分で考えてみる事に、本のメインテーマの一つ「エリートではない庶民的な日本人が、グローバル環境をどう生き抜いて幸せになるか」の答えがあるように思う。


■純粋な「読み物」としても骨太

ここまで「和僑予備軍」としての自分の置かれた立場から色々書いてみたが、難しい事を考えずとも、この本「ノンフィクション」そして「中国本」として読んでも十分面白い。
特に第一章で、著者が「中国の農村に住んでるけど質問ある?」という2chのスレッドに書き込まれた情報だけを頼りに、中国・雲南省の田舎町に住む日本人を探す過程は、恐らく誰が読んでも文句無しに面白い。
風俗嬢へのインタビューは若干ダークさに欠けるもののマカオでの取材もあって興味深いものになっているし、上海の日本人社会の安定に一役買っているという日系暴力団組長の話も他では読めない非常にディープな話だった。どれも中国に対する知識を持った上で、現場に行き自分の頭と足を使って取材した人にしか書けない文章だと私は思う。


■上海の日本人社会を覗きみる

この本の内容である意味「異色」ある意味「王道」なのは四章の「日本人村に引きこもる上場企業の駐在員たち(とその家族)」の話だろう。
この章で描かれるのは英語や中国語を駆使して「国際派」としてバリバリ活躍する一部のエリート駐在員ではなく、いわゆる現地との接触をできるだけ避ける「内向き」な駐在員たちだ。私個人としてはできるだけ関わりたくない人種だが、これも中国における日本人(=和僑)のあり方なのだという一例ではあると思う。
また、著者はこの章の上海での取材を元に現地での「日本人社会のヒエラルキー」を明らかにし「(上海の)日本人社会は日本国内以上の格差社会だ」と書いている。安易に日本でダメだから景気の良さそうな中国・上海へ行こうと思ってる人は読んでみるといいかもしれない。


■「海外脱出本」として読むのもあり?

著者はこの本で、自己啓発本に見られがちな「日本人よ海外に出ろ」とは言っていない。海外に脱出するためのノウハウが書いてあるわけでもない。だが、この本では「中国という国に住む日本人が何を考え、その国とどう向き合い、どう幸せを感じているか…」その一例が提示してある。「海外脱出」を考える際の一つの判断材料としても役に立つだろうし、前述した「海外に出るハメになる」前に読んでよくのもいいかもしれない。

個人の感想ではあるが、この本に出てくる例は読者にとっては「ヒント」であって「答え」ではないと思う。中国という国が合う人間もいれば合わない人間もいる。私にとって中国は相性の悪い国だったが、代わりにその後、「台湾」という相性の良いと思える国に出会えた。
自分自身で感じたり、日本から海外に出てきている日本人と触れ合って思ったのは「国と人というのは相性がある」ということ。日本という国が合っている人もいれば、この本に出てくる登場人物の様に日本よりも相性のいい国を見つけた人たちもいる。


■自分なりの「和僑」の理解

上海で日本人村に引きこもる駐在員たちは別として、この本に出てくる「和僑」たちにの多くに共通しているのは、「考えるよりも体が先に動いている」という事。特に一章で出てくる「ヒロアキ」氏などはそれが顕著で、まず行動し、行動の過程で努力し、失敗はするものの、その失敗から学び結果的に現地に適応している。
こういった性質を持っていたから中国に出たのか、中国に出たからこういった性質を持ち得たのかはわからないが 「和僑」とは日本人として「これからを生き抜くための性質」を持っている、持とうとしている人々なのではないか。



和僑    農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人
(2012/12/15)
安田 峰俊

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ここからは余談です。


■これもまた「和僑」の生き方なのかも

実は取材対象とされていたが、最終的にこの本では取り上げられなかった有名人が一人いる。
それは「中国で一番有名な日本人」という売り文句で(未だに)活躍中の加藤嘉一氏である。
本当に「中国で一番有名な日本人」かどうかは別として、彼が中国で大きな人気を誇っていたのは間違いない。

この本は「中国大陸で仮住まいしたり、旅したり、出稼ぎしたりしている日本人(=和僑)」にスポットを当てた本であり、本来、これ以上の素材はないはずである。
著者が彼を取り上げなかった理由は私は知らないが、著者がその後、週刊文春でこんなスクープ記事を書いていたりする事に答えがあるかもしれない。

「中国で一番有名な日本人」加藤嘉一氏に経歴詐称疑惑
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/1983


それとは別に加藤嘉一氏は中国共産党によってプロデュースされたという記事も出ている。

「学歴詐称」「中国共産党の広告塔」疑惑の真相
後ろ盾中国共産党も敵に回り…「中国で一番有名な日本人」の闇
http://biz-journal.jp/2012/11/post_996.html

「共産党のスピーカーとして生きる」というのも確かに「和僑」の生き方の一つかもしれない。
褒められた生き方かどうかは別として。

個人的に非常に面白いと思ったのは、加藤嘉一氏が日々コラム等で「日本人よ、海外に出ろ」「英語をやれ」といった言葉を使って「意識の高い学生」から支持を集めているのに対して、加藤氏の告発記事を書いた著者が、この「和僑」で「エリートではない庶民的な日本人が、グローバル環境をどう生き抜いて幸せになるか」というテーマに挑戦していることだ。

著者自身が苦労している事もあるが、安田氏らしい「地に足のついた切り口」であると私は思った。最近日本では「若手論者」ブームが起こっているらしいが、評価を見てみると薄っぺらい印象を受けている人も多いように感じる。安田氏には勿論もっと売れて欲しいが、これからも「地に足のついた」骨太の文章を書き続けて頂きたいと思っている。応援してます。


長文読んでいただきありがとうございました。


■宣伝・追記

あ、宣伝になりますが実は私半年ほど前から「ノンフィクション・ライター小野登志郎のメールマガジン」で毎週「台湾」について書かせてもらってます。

ノンフィクション・ライター小野登志郎のメールマガジン~牡羊座が見たディープな出来事とスターたち~
http://www.mag2.com/m/0001552211.html

最近は「日本人の知らない台湾」がメインテーマです。
内容は私の台湾ネタの他にも北朝鮮・裏社会・短編小説・サブカルなど盛り沢山で毎週配信で441円(税込み)
興味のある方はぜひ登録よろしくお願いいたします。

それではまた
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